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私は今、猛烈に走っている。
会社の始業時間まであと十分、幸い今日は雨が降っていないから 傘をさすという手間がかからない分、走ることに集中出来る。
遅刻は社会人の恥。
若くて可愛い子じゃあるまいし『遅れてすみませ~ん』なんて、身体をくねらせて上司や先輩に詫びる行為は、私には許されていない。
…昨晩は ハードな出来事があり過ぎた。
今朝 目覚めた時には、起きる時間を三十分も過ぎていた。
目覚まし時計代わりのスマホを握り締めたまま、二度寝したようだ。
飛び起きてから家を出るまでの戦争中、三郎の姿を見なかった。
コーヒーを飲みながら朝の情報番組を眺めるお母さんに 三郎の行方を聞く暇もなく、とにかく身なりだけを整えて玄関を飛び出した。
「志織ちゃん、行ってらっしゃ~い。帰りに三郎の物、いろいろ買って来てねぇ」
リビングから聞こえた、のんびりした声に送り出される。
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