44人が本棚に入れています
本棚に追加
/248ページ
戦争へ行った兄が帰ってきた。
家族は喜んだ。
けれど、まわりの家の住人からは冷たい視線を浴び続けた。
兄には恋人がいた。
見た目も心も綺麗な人で、精悍で心優しい兄とは、とてもよくお似合いだった。
兄が帰ってきて9年後。
その彼女が空爆による炎に巻かれて死したことを知らされた。
死体は美しかった面影もなく、骨が一部剥き出しになったような見るに耐えないものであった。左手の薬指の煤けた指輪が身元の照明品であった。
周囲からの冷たい目と、彼女の死。
無理をして毎日を笑っていた兄は、とうとう倒れた。
記憶を失った兄。
その記憶が戻るのは、夜の間のみだった。
最初のコメントを投稿しよう!