6787人が本棚に入れています
本棚に追加
どんどん違う話題に流れていく連中を横目に、折原はどこかほっとした顔で俺の方を見ているのが分かった。
なんだかそれが昔の、それこそ本当に昔の中等部の頃の折原みたいで。折原のワックスやらなにやらで固まっている髪の毛を、気が付けば撫でまわしてしまっていた。
折原が、きょとんとして、それから照れたようにはにかむ。
「俺、サッカー選手になりたかったんです」
「知ってる」
と言うか、おまえはそのサッカー選手じゃねぇか、今。
「ずっと、サッカーが好きだったんです」
「知ってるっての」
「でも」
騒がしい店内の中、折原の声だけが静かに鼓膜に直接注ぎ込まれるみたいだった。
「佐野先輩が居なかったら、俺は今みたいに好きになれてなかったかもしれない」
――そんなわけ、ねぇだろ。
否定する代わりに、飲み物の乗っているメニューを折原の前に突き出した。
「酒飲むなよ」
釘を刺しただけにも拘らず、折原は嬉しそうに笑って、富原は「佐野は相変わらず過保護だなぁ」と目を細めた。
最初のコメントを投稿しよう!