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「過保護なのは俺じゃなくておまえだろうが、昔から」
酔い潰れた後輩を気にしてか、ベランダに出た富原に付き合って、外に出る。
夏の夜は蒸し暑かったが、クーラーの効いていなかった寮の、真夏の夜の寝苦しさほどじゃない。
鉄さびた柵に肘をかけて、煙草に火を点ける。「灰、落とすなよ」と富原が苦笑するのに、空き缶を拾い上げて応じる。
「あいつ、二十歳になってたんだな」
「つい先月だけどな。忘れてやるなよ」
言って、富原が窓越しに室内を振り返る。
「でも、こんな潰れるほど呑まないよ、いつもだったら。今日は、おまえがいたからだろ」
先輩、佐野先輩、と。
じゃれるように引っ付き続けていた後輩を引きはがそうとして失敗した。
あのころのチームメイトは、こぞって折原のことを犬だと言うが、その通りだと俺も思う。
あの、邪気のなさそうな、というか全身で「好きなんです」と言っている顔で懐かれると、どうしたって邪険にできない。
……それも、言い訳なのかもしれないけれど。
引きはがせないまま、富沢の家にまで折原を連れて一緒にきてしまった。
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