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「そう言えば、佐野。知ってるか?」
「……なにを」
「今じゃ信じられないけど、あいつ中等部に入ったころ、おまえのことかなり苦手だったみたいだぞ」
からかうように口にした富原に、俺は黙って灰を空き缶に落とした。
知っている。
確かにあいつが超中学生級のエースとして入学してきた当時、俺も一応一軍に在籍していたわけだが、折原から喋りかけられた記憶はほとんどない。
それがなんでこうなったのか、きっかけを俺は知らない。ただいつしか、振り返ればそこにいるようになってしまっていたのだ。
「どうせおまえが勝手に、俺を『良い人』に仕立て上げたんだろ」
無理矢理のようにして微笑うと、富原は緩やかに否定した。
「そんなこと、してないよ。――まぁ、あいつが苦手だって言うたびに、よく見てみろとは助言したけどな」
「っつかそんな愚痴ってたのか、あいつは」
「おまえの優しさは、分かりにくいからな」
だからおまえにかかったら、みんな良い人になるんだって。
苦笑して、深く紫煙を吐き出した。あのころだったら、絶対吸おうと思わなかったものだ。今も、折原が隣にいたら、絶対吸わないだろうと思う。
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