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「あいつ、昔からずっと特別扱いされてたんだろ、良くも悪くも」
「そりゃ、折原だからな」
一つ年下と言っても、年代は同じだ。昔から、あいつの名前を俺は一方的に知っていた。俺だけじゃない、サッカーをしていて、上を目指していた奴だったら、みんなそうだったと思う。
どの年代のユースにも必ず名前を連ねていて、何度も世界と戦っていたエースフォワードだった。
その折原が、何を思って、クラブユースではなく、深山を選択したのかは、知らないけれど。
「うちに入りたての頃も、どこか周りは遠慮がちだったしな。同学年の奴らもどう扱っていいのか悩んでたんだろうし」
「今じゃただの馬鹿だけどな」
「その馬鹿にしたのは、佐野だろうって話だよ」
それゃ俺に夢見すぎだ。そう笑い飛ばそうとして失敗した。
富原はどこまでも真面目な色を点している。
「おまえが他の奴らが思ってても陰でしか言わないようなことを、軽口にして折原にぶつけて、じゃれてただろ。それで周りも空気も、確実に変わったよ。折原も」
「俺は、あいつがスカしてんのがムカついたから、しめてただけだって。変わったとしたら、それはあいつが自分で現状をどうにかしようとした、その結果で、だろ」
「なぁ、佐野」
富原が外に目を向けたまま、静かに口を開いた。
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