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「おまえ、折原のこと、好きなのか」
――そんなわけないだろ、と即座に否定し損ねて、誤魔化すように煙草を吸いこんだ。
「ん、あぁ……どう思う?」
果して俺の声は、軽口を叩く調子を保てているのだろうかと思って、こいつ相手だったら今更かもしれないとも思った。
どうせ、ばれる。
「質問に質問で返すな。それに、俺が決めることでも判断することでもないだろう」
「おまえの正論、きついんだよ」
優しそうな顔をして、そのくせ誰もが言いにくいようなこともきちんと諭して、チームをまとめ上げていた。俺が知っているのは中等部での話だけれど。
「きついと思うのは、図星だとおまえが思ってるからだぞ」
「あー……そうなんかな。わかんねぇわ、俺」
好きだとは口が裂けても言えない。けれど嫌いだとも口にできない。ただの後輩だと言うには、同じ空間を共有してきた富原相手には白々しすぎる。
つまり、そう言うことなのだ。
「別におまえの口からはっきり聞きたいわけじゃないけど、なぁ、佐野」
聞きたくないな、と思ったのは、その先が予測できたからだ。
そしてそれが俺を揺さぶると分かっていたからだ。
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