夢の続きの話をしよう《1》

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終電間際の乗り継ぎの悪さも相まって、一人暮らしをしているアパートに辿り着いたのは、日付が変わる頃になって、だった。 理由は考えたくないが、ひどく疲れている感じがした。 そのまま横になってしまいたい衝動を堪えて、時間を確認しようと、ポケットから携帯電話を取り出した瞬間、着信を伝える振動が掌に広がった。 庄司か、と一番頻度の高い友人の顔が浮かんだのも束の間、画面に表示された名前に、瞠目する。 ――重なるときには、重なるんだな。 それは深山学園の中等部に在籍していた当時、ずっと一緒だったチームメイトの富原の名前だった。 少しの躊躇いの後、通話ボタンを押す。繋がった通話口で、ほっとした声が「佐野」と俺を呼んだ。 「電話珍しいな、どうした?」 「いや、久しぶりに。どうしてるかなって思って」 そんな理由じゃ電話してこないだろうと分かっていながら、「おまえは俺の彼女か」と笑ってみせると、富原も小さく苦笑を返してきた。 その声に、困ったように笑っていた顔まで誘発されてしまう。富原は根っからのキャプテン気質と言えばいいのか、要領が悪いと言えばいいのか人が良いのか、とかくよく貧乏くじを引かされていた。 けれど結局、嫌な顔は見せないで「仕方ないな」という溜息ひとつで、元気なチームメイトをまとめていた。
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