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あのころと、違うのは分かっていた。
当時のメンバーと会ったからと言って、何がどうなるわけでもないのだろう。
高校生だったころ、俺たちの世界は確かにサッカーだけで閉じていた。けれど、今はそうじゃない。
でも、――富原がいて、あの当時の仲間がいて、折原がいる場所には、変わらずそれしかないような気がしている。
「俺は、おまえがフットサルのサークルに入ったって聞いて、本当に嬉しかったよ」
「ほぼ飲みサーだけどな」
「それでも、またサッカーに関わってくれるんじゃないのかって、それが」
あの広いフィールドとは全然違うけれど。やっている人間も、全然違うけれど。
「なぁ、佐野」
「なんだよ」
「いいかげん、俺は折原に恨まれてると思うんだが」
「なんでだよ」
分かっているくせにと言いたげに、電話先で富原が苦笑したのが分かった。
「おまえの話ばっかりだよ、酒が入ると。佐野先輩、佐野先輩って。富原先輩は佐野先輩と連絡取ってるんでしょって」
「……しょうがねぇな、あいつ」
さっき見てしまった折原の笑顔が簡単に脳裏に浮かんだ。返答もおざなりにしてしまいたかったのに、それは叶わなくて。
ただ声が震えていないことだけを祈りたいような気持ちだった。
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