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あれから何度も練習場に足を運んでいる栞は、折原とよく話をするようになったらしい。
あのねあのねと楽しそうにサークルの部室で報告してくる栞は、友人の贔屓目でなくても可愛い。
折原が――、そう言う意味での一線を越えるような奴ではないと思っているけれど、目に留まるようなことがあっても、少しもおかしくないのだなと。
なぜかそんなことまで考えてしまって、何とも言えない気分になる。
けれどそれもおそらく、捨てたはずの思い出が、関係がなかったはずのこの空間を侵食しているようで、だから嫌なんだろう。
そう思うことにして、俺は栞のとりとめもない会話に適当に相づちを打つ。
「でね、今度もまた見に来てねって言ってくれたんだよ、あたしの顔、覚えてくれてるみたいで、もうほんと幸せ!」
「へぇ、良かったな。見に行った甲斐あって」
「でっしょー。折原くん、かっこいいだけじゃなくて、すっごい優しいんだぁ」
へへっと顔を崩した栞につられるようにして、幼い折原の顔が浮かんだ。今の折原は、想像できない。
当たり障りのない返答している俺の横では、庄司が面白くなさそうな顔で携帯に視線を落としていて。
……気になんなら、カッコ付けてないで一緒に練習見に行ってやったら良かったのに。
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