夢の続きの話をしよう《1》

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栞の勢いに呑まれただけではないと思う。どちらかと言うと、「行かない」言い訳をうまく作れなかったからだ。 そして何故そんなに嫌がるのかと、不審に思われるのを恐れただけだ。 折原が自分の存在に気が付くと自惚れて、恐れているんじゃない。 俺の中で折原が蘇ってしまいそうな気がするのが、嫌だった。 ホイッスルの音、ギャラリーの歓声。選手たちの声。 そのすべてが、一度俺が過去に置き去りにしてきたものだった。 道路の向こう側。練習場のフェンス越しで中を見入っている栞の後姿からそっと視線を外して、アスファルトに落とす。 いつもあたし、一番前で見てるんだ。そこ行こうよ、佐野。そう満面の笑みで誘ってきた栞に、それはいろんな意味で俺の心臓が持たない予感しかしなくて丁重にお断りをしたのが十数分前のことだ。 「俺が一緒だったら意味ないだろ。遠くから様子観察しててやるから」との俺の弁をあっさりと鵜呑みしてくれたことに感謝して、遠目に隠れることが出来たところまでは良かったのだけれど。 ――やっぱり、駄目だな。 どんなに意識を反らそうとしても、声も、音も、なにもかも飛び込んでくる。 こんなにも距離があるのに、紅白戦をしているらしいグラウンドからは、サッカーの熱が伝わってくるようで、膝が疼いた気がした。 馬鹿みたいだ、もうそこは、なにもないのに。
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