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全国屈指の強豪とされる深山の練習は、厳しかったと思う。あのころは目の前のことにただただ必死で、他に比べてどうのこうのと考える余裕はなかったけれど。
少しでも調子が悪いとあっという間に二軍に落ちる。夏場はよく吐いてる奴もいたなと思い出す。
でも、楽しかった。
富原がいて、磯川がいて、――折原が、いて。
どこまでも一人で勝手に落ちていこうとする回想を止めたのは、グラウンドで響いた高いホイッスルの音だった。
一度グラウンドで集まった選手たちが、ちらほらとフェンスに向かい始める。若手の選手目当てだったらしい女の子たちからは華やかな声が上がっていた。
その中に、折原もいた。栞が待っているのとは反対側からスタートして、ユニフォームにサインをしたり、差し入れを受け取ったりしていた。
肉眼で見るのは、もしかしたらあの退寮の日以来かもしれなかった。トレーニングを積んだ身体は、あのころよりもずっと大きく見えた。
小さい子どもの前に立つと当たり前のように屈み込んで視線を合わせる折原を、遠目なのを良いことに俺は凝視してしまっていた。
あぁでも、案外平気なもんだなと確かに思った。フェンスに行って喋りたいとは思わないけど、一方的に見ている分には、恐れていたほどの動揺を感じはしなかった。
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