夢の続きの話をしよう《1》

19/29

6626人が本棚に入れています
本棚に追加
/787ページ
でもこれが当たり前なんだろう。いつまでもしこりを持ち続けている俺がおかしいのだと嫌と言うほど知っている。 だって、折原にしたら、もうずっと過去の話のはずだ。俺と一緒にサッカーをしていたという、記憶は。 栞の前で折原が立ち止った。クラブハウスに戻る前の最後のファンサービス。だから少し、他の子たちより長めの時間が取れていたのかもしれない。栞に向けられる笑顔は、子どもに向けていたものとほとんど変わらない。 栞に言われるまでもなく、ただのファンと選手とのやり取りだ。実感して身体から力が抜けたそのとき、だった。 栞が何か話しながら、こちらを振り返った。それに応じるように栞と相対していた折原の視線が動いて――、表情が止まった。 「――先輩!」 ガシャンと派手にフェンスが鳴った。その音と折原の声に、立ち去ろうとしていたファンの子たちが足を止めたのが分かった。 「先輩、佐野先輩!」 何をそんなに叫んでいるのだと。痺れたみたいに動かない思考の片隅で思いながら、けれどそれは思うだけで、俺は折原から視線を反らせなかった。 動揺は感じないだなんて、馬鹿みたいだ。 折原が俺を認識したのだと分かった瞬間、そんなの、嘘みたいに弾け飛んだ。
/787ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6626人が本棚に入れています
本棚に追加