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動かない俺と折原とを見比べて、栞が戸惑ったように「佐野」と俺を呼ぶ。
道路を挟んでだからだろう、大きい声。
「折原くんと、知り合いだった?」
それは、持って当たり前の疑問で。
聞こえないふりは、できなかった。逃げるように立ち去った方が、目立つことも分かっていた。
言い訳のように自分自身に言い聞かせながら、そっと一度視線を外した。途端、やっと息が出来るようになった気がした。
あくまでも平然を装って、栞たちの方へと足を向ける。その間もずっと折原の強い目が俺を見ているように感じた。
一メートルも離れていない、フェンス越しに折原がいる。この距離で視線を合わせるだけの気力が維持できそうになくて、俺は栞に顔を向けた。
「後輩」
「え、折原くんが? 佐野の?」
「高校の時のな、それだけ。会うの事態、かなり久しぶりだけど」
「佐野、高校県立って言ってなかったっけ」
「佐野先輩、高二の終わりまで深山だったんっすよ、だから。っつか会うの久しぶりなのは、先輩がどれだけ誘っても深山の飲み会に顔出さないからじゃないですか」
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