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「先輩」
かたんと小さな音がして、部屋のドアが開いた。その音に意識が現実に引き戻される。
重たい頭を持ち上げた先に立っていたのは、想像していた通りの後輩の姿で。
いつもの不遜なまでの自信満々な姿をどこに置いてきたのだと思うくらい頼りない表情で、小さく笑ってしまった。
「折原、部活は?」
今はまだ部活動中のはずだった。現にサッカー部専用のグラウンドに近いこの寮の部屋には、監督の怒鳴る声がしっかりと届いている。
だからそう尋ねただけなのに、よく女子に騒がれている整った顔を、折原は泣きそうに歪めた。
「ちゃんと許可もらってきましたよ、俺」
「なんの許可だよ」
「先輩の退寮の手伝い」
だからなんでそこでおまえがそんな泣きそうな顔すんのかな。
俺より一年遅れて深山学園中等部に入学してきた折原は、そのころからアンダー14の代表に名を連ねていた。俺たちの世代では、頭一つ飛び抜けている存在。
不動のエースストライカー。
飛び抜けすぎていた実力のせいか、その人好きのするあっけらかんとした性格の賜物か、あっという間に深山のレギュラーになっても、陰湿ないじめなどに遭うこともなく、伸びやかなままだった。
それなのになぜか、折原は昔から不思議なほど、俺に懐いていた。
高校も深山にしようと決めたのは、折原が「一年待っててくださいね」と何の疑いもなく笑ったからだった。
自分が高等部でレギュラーを獲るのも、俺が高等部でレギュラーを獲るのも、当たり前だと確信しているその顔で。
また一緒に全国でサッカーしましょうねと、そう。
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