夢の続きの話をしよう《1》

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「ってか、佐野、折原くんと同じ高校でサッカーしてたの? すっごい意外なんだけど」 割って入ってきた栞の声に、俺は急激に熱が冷めていくのを自覚した。 いや、そうじゃない。これで良かったんだ。 俺は、今、何を考えていた? 「意外って、なんでだよ。今も似たようなことしてるだろ、俺」 折原から視線を外して、栞だけを視界に留める。大丈夫だ、これが今だ。こちら側が俺の世界だ。 「だってさ、佐野、サッカー下手じゃん」 「そんなことないよ、先輩、超上手いよ」 「うっそだー、折原くん、先輩だからって佐野なんか立てなくていいよー。だって佐野、最初のころ、フットサルの試合、散々だったもん」 「それ、きっと……」 言いかけた折原を遮るように、「栞」と少し強めに名を呼ぶ。不満そうに口を尖らすのを、もう用は済んだだろと押し返す。 栞は仕方ないとでも言いたげに小さく肩を竦めてみせた。 「先輩、もう帰るの?」 「おまえも早く戻れば? もうおまえ以外、誰も残ってねぇみたいだけど」 ちらちらと俺たちを窺い見ているファンの女の子たちを除けば、ほとんど人は残っていなかった。 それでも折原は、どことはなく寂しそうな不本意そうな顔をする。 折原にしたら久しぶりに会った先輩がすぐにいなくなってしまうのが不満なのだと言う、それだけなのだろうけれど。 「えー、じゃあ今度どっかで飯行きません? 俺、佐野先輩ともっと話したい」 そして後輩の顔で強請られた誘いを無下に切り捨てることは出来なかった。「時間が合ったらな」と曖昧に応じて、背を向けた。フェンス越しのこの距離でいいのに。なんでおまえは、乗り越えてこようとするんだ。 それが折原にとって、ただの旧友との親交であっても、俺がそうじゃなかったら、それは駄目なのに。 俺が駄目だから、ずっと避けてきていたのに。
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