夢の続きの話をしよう《1》

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「先輩」 正門から数メートル進んだところで、人を撒いてきたらしい折原が隣に並んできた。前を見据えたまま、俺が小さく息を吐いたのと、折原が嬉しそうに笑ったのがほぼ同時だった。 「先輩の声、変わんないっすね。俺ね、昔から先輩に名前呼ばれると背筋が伸びるっつうか、絶対決めなきゃみたいなこと、よく思ってたの思い出しました」 「おまえはさ、」 昔話なんてしたくない。俺はおまえとそんな話をして、平静でいられない。 もう一度切り捨てる覚悟を溜めて、折原を見上げる。あのころより少し大人びたような気はする。高校生だった頃はもう少し無邪気な少年という感が勝っていた。今は端正、と言う色合いが強くなったように思う。 「おまえは、もう全然あのころとは違うじゃん。なのにこんなとこでわざわざ囲まれて、なにやってんの。っつうかなにがやりたいの」 「だって、俺、先輩の連絡先とか知らねぇし」 「そんなもん、富原にでも聞けよ。知りたかったら」 「その富原さんに、俺に自分の番号教えんなっつったの、あんたでしょうが」 責めるようにと言うよりかは、苦しそうだった。嫌だな、と思った。 ここでこんな、どうにもならない話をしていることも、こいつがこんな表情を見せることも。 「だったらそれで察しろよ。俺はおまえに会いたくなかったの」 「俺は、」 折原の手が伸びたと思った時には、手首をきつく掴まれていた。 「ちょ、おまえ、ここ、どこだと……」 「俺は、ずっと、会いたかった」 文句が立ち消えたのは、折原の眼が馬鹿みたいに真剣だったからだ。 馬鹿だ。掴まれたままの指先が熱いように思うのは、俺がそれを望んでいるからなのだろうか。 だとしたら、どうしようもないと思う。本当に。 「佐野先輩に会いたかった」 呟くように落ちた折原の声は、ひどく頼りない様で、そのくせ何かの祈りみたいだった。 ――俺は、おまえに会いたくなかったよ。 言うはずだった台詞は、喉の奥で凍って消えた。
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