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「泣くなよ、折原」
「泣いてないっすよ」
「嘘付け、泣いてんだろが」
「これはあんたが泣かないから、俺が代わりに泣いてあげてるだけなんです」
俺は、泣きたかったのだろうか。自問してみたけれど、やっぱりよく分からなかった。
折原だけじゃない。中等部のころから一緒だったチームメイトは、みんな残念がってくれた。
がんばれよと発破をかけてくれた奴もいれば、ただ慰めて手を握ってくれた奴もいた。
「できないことは、ないですよ」と医者は判じた。
君はまだ若い。治療を続けてリハビリをして、そしていつか。
ただプロを目指せるかと言われると、どうでしょうね、少し難しいかもしれない。でも君の頑張り次第では可能性はあると思う。
なんて曖昧な言葉。
今だってプロになれる確証なんてない。
それが更に可能性が狭まって、治療をしたからといって今以上になれるかなんて分からなくて、どうやってそこにすべてを賭けられると言うのか。
全国大会優勝、それで十分じゃない。立派な思い出よ、と母親が取りなした。
今までずっとあなたはサッカーをやっていたけれど、大学に進学したら、大人になれば、世界はもっと開けるわ。
サッカーから離れる。
世界が開ける。
そうなのかもしれないとも確かに思った。
けれどそれ以上に、俺の思考には世界の終わりみたいに映ったのだ。
続けたいと思うのと、プロにもなれないのに今からリハビリをして何になると思うのが、これまた半々で。
そうして俺は結局、深山から逃げ出した。
この場所にいるのは、苦しかった。
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