夢の続きの話をしよう《2》

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……と言うか、俺は馬鹿なことにパスを要求された瞬間、何故か高校生のときの試合のような錯覚に陥っていたのだ。だから思いっきり蹴ってしまった。折原に、届くように。 実際にはあの頃のような球威ではなかったと思う。それでもあんな狭いフットサルのコートでろくに練習もしていない相手に送るパスではなかった。 鼻血が出たことによって、試合に出られなくなったそいつと、見に来ていたメンバーに「おまえはもう蹴るな」だの「このノーコン」だのとからかわれた現場を見ていた栞は「佐野は下手」と認識したらしい。 憐れに思ったらしい庄司が何度か、栞に「いや別に佐野、下手じゃないよ」と訂正を試みてくれていたが、思い込みの激しい栞の記憶を上書きすることができないまま、今に至って、この間の会話に繋がっているのだった。 「でも、先輩、サッカーまたやり始めたんですよね」 「サッカーじゃねぇけど」 「うん、でも、なんかちょっとだけ、ほっとしました」 そう言った折原がどんな表情をしていたのかは、知らない。窓の外の流れる住宅街に視線を残したまま、俺は何も答えられなかった。
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