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「じゃあな、折原」
「……先輩、また俺、連絡しても良いですか」
「連絡しますからね、先輩も絶対してくださいよ!」いつもの折原なら、絶対そう言ったと思う。
こいつに気遣われたんじゃ、どうしようもないなと自嘲する反面、「いいよ」だとか「当たり前だろ、なに言ってんだよ」だとか。そんな風に言ってやるだけの余裕なんてなくて。
俺は「そうだな」と曖昧に笑って、目を伏せた。
折原の顔を、見たくなかった。
「しばらくサッカーから離れたい、かな。おまえのことは応援してやりたいと思うし、いつかおまえは世界で活躍していくんだろうって信じてる。でも、それと違う次元で、俺はおまえに触れたくない」
折原とサッカーが結びつかないわけがない。
それが整理できるようになるのがいつかだなんて、俺にだって分からなかったけれど。
「サッカーじゃなくても、俺、」
折原の声は、微かに震えていた。
どんな試合の前でも、どんなぎりぎりの状況でも、そんな声、出さなかったくせに、なんでこんなところで出してんだよ。
その先を塞ぎ切る為に、バカじゃねぇのと努めて軽く応じてみせた。
「おまえからサッカーとったら、なにが残るんだよ」
「残りますよ」
「そうだな、顔は良いもんな」
残るもんはあるよなと続けた俺に、「先輩」と苦しそうに折原が呼んだ。
似合わない。全然似合わないと思う、おまえには。
そんな葛藤も、切ないようなその声も。
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