6827人が本棚に入れています
本棚に追加
「先輩」
折原の手がそっと肩に伸びてきた。大きな手。まだ身長伸びんじゃねぇのかなんて、わざとどうでもいいことを考えた。
「先輩」
「なんだよ、俺、もう迎え来るんだけど」
「キスしていいですか」
駄目だと思った。見てしまった折原の瞳はどこまでも真剣で、あぁおまえは本当に馬鹿じゃないのかと、そう念じた。
「最後に、しますから」
「だめ」
「なんで、ですか」
「なんでも」
「……最後にできなくなるからですか」
その言いぐさが不安そうなくせに、なぜか自信満々で、ああ折原だなと思った。
折原だ。
「駄目なもんは、駄目なんだって」
それでもいつか、こんな記憶を忘れて、俺はテレビ画面の中で折原を見る日が来るのだろうと夢想する。
青い日本代表のユニフォームを身にまとって躍動する折原を想像するのは簡単すぎた。
こいつにはそれが当たり前の未来なんだろう。
そんな未来に、俺はいらない。
折原が決断しない代わりに、俺が決めても良いと思う。
それくらいには、俺は折原の未来が大事だったし、必要だった。
最初のコメントを投稿しよう!