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「……なぁ折原」
肩にかかっていた折原の手は、懸念していたよりもずっと簡単に振り払えた。
「俺には未来が見えるんだ」
なにを言っているのだ、と一瞬思ったけれど、俺はこのとき間違いなく本気だった。生きてきた中でこれだけ頭を使ったのは初めてかもしれないと思うくらい、必死で考えていた。
折原の、未来を。守るべき先を。
「おまえは、このまま高等部にいる間ずっとレギュラーだよ。もしかしたら怪我することもあるかもしれないけど、大丈夫、ちゃんと治るよ」
「せんぱ……」
「それで、プロからもいくつも誘いがある」
先輩、と遮るように折原が呼んだ。そして、「でも」と苦しそうに言い募る。
「でもそこには、あんたがいないじゃないですか」
「そりゃしょうがないだろ」
今、俺たちは、ここでたまたま一緒にサッカーをやっていたけど。
持っている能力が違う。才能が違う。
言葉にしたら馬鹿みたいだけど、けれど真実だ。
やればやるほど、のめり込めばのめり込むほど分かる。分かってしまう。
折原は、サッカーそのものに愛されてる。
サッカーが好きで、たぶんサッカーも同じくらいに折原が好きなんだ。
俺とは違う、どこまでも折原はたどり着ける。
「佐野先輩がいないのは、いやだ」
「なに我儘言ってんだよ、おまえはなににでもなれる。どこにでも行ける」
俺が折れないと思ったのか、折原がふっと目を伏せた。
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