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「俺は、自分に才能がないとは思わないけど」
「当たり前だ。おまえがそんなこといったら、殺されるぞ」
「でも、俺は先輩とやるサッカーが一番楽しかった。ユースでやるより、どこの代表でやるよりずっと」
「……そりゃ光栄だ」
未来の日本のストライカーにそこまで言われたら、良い思い出になるわ。
笑ったのに、「茶化さないでくださいよ」と折原が伏せていた顔を持ち上げた。
茶化さなかったら、どうしろって言うんだよ。
俺は、ここで、終わりたい。おまえだって、そうだろ。
これ以上の何を求めたいんだ。
それはこれから先の重荷でしかないって、おまえも知っているだろう。
「先輩」
「なに」
「先輩、俺は―――――」
それ以上を、聞きたくなんてなかった。
これできっと、離れられる。
サッカーからも、折原からも。
折原が俺のことをどう思っているのか、まったく気づいていなかったかと言えば嘘になると思う。
けれどそれは一過性のものだと思っていたし、すぐに無くなってしまうものだと思っていた。
俺は、どうなんだろう。
ずっと、ずっと分からなかった。
惹かれるのと同時に、ずっと悔しかった。
俺にはないものをいくつも持っている折原が。
先輩、と笑顔で寄って来られるたびに、俺がそんなことを考えていたなんて、折原は知らないだろうけれど。
これで、終わる。
ここにいるのは、もう苦しかった。
どうにもならないくらいに。
俺にとって、サッカーというのは、折原そのものだったのかもしれない。
【むかしみたゆめの終わり】
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