夢の続きの話をしよう《3》

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スコアレスドローの後半15分、交代の笛が鳴った。 あっと嬉しそうな声をあげた栞に教えられるまでもなく、俺も気がついていた。 折原だ。 流れたアナウンスに、会場内から折原のコールがわき起こる。 フォワードの仕事は点を取ること。それがチームのエースなら尚更だ。こいつならやってくれるんじゃないか。そんな雰囲気を、折原はいつも持っていて。 同じチームでプレーをしていた時、何度も励まされた。そしてもっと折原を輝かせたいと、いつだって俺は何故かそう願っていたような気がする。 パスは繋がるものの、なかなか得点に結びつかない時間が続く。 ずっと避け続けていたのが信じられないくらい、俺はフィールドを駆ける折原から目が離せなくなっていた。 隣で叫んでいる栞の声も、観客席から沸き起こる声援も、今はひどく遠い。 ――折原、だ。 ふいに目の奥が熱くなって、誤魔化すようにして一度ゆっくりと瞬いた。それでも見下ろす先にある姿は変わらない。一緒にフィールドに立っていたころの折原じゃない。 日本を代表する選手になった折原がいる。これだけの熱気に包まれて、今そこにある。 それは、ずっと昔、夢想した、いつかの未来だった。 青いユニフォームを着て、いつか世界に羽ばたける。広い世界に続いているその道をただ歩んでくれればいい。 なんにでもなれる。どこへでも行ける。
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