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まるで――。
そう、まるで。なれるはずのない自分の分の未来まで託すように、そう、祈っていた。
それがどれだけ傲慢なのかも、分かっていて、でもそれでも、と。
――俺は、先輩が、そこにいないのは嫌だ。
あのとき、折原はそう言った。もうそれで十分だと思った。十分すぎる。十分すぎた。
ペナルティエリアに抜け出した折原の足元にボールが飛び込んできた。吸いつくようなボールさばきでふわりと浮いた球が、そのままゴールネットに突き刺さる。
「―――――!」
観客席が地響きのように揺れて、歓声が鳴り響いていた。抱き着いてきた栞に応えることもできないまま、俺はただ息を詰めてフィールドを見下ろしていた。
ゴールを決めた折原は、駆け寄ってくる仲間にではなく、確かにこちらに向かって笑った。
これだけの人がいる中、見えているわけがない。俺がそこにいると分かっているわけがない。
でも。
いつもゴールを決めると真っ先に俺を探して飛びついてきていた。いつも、いつも。
同じチームにいる間、それは、ずっと。
フィールドでは得点を奪い取ったエースが仲間にもみくちゃにされていた。スクリーンには折原の笑顔が大写しになっている。
そしてそれを俺はここから見ている。
それは――ひどく奇妙な感覚で、けれど何かがすとんと胸に堕ちてきた。
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