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「すごかったねぇ! また決めちゃった! って、あれ……、佐野? ちょ、佐野!」
「え、あ……悪ぃ、なに?」
揺れる観客席で届くように声を張り上げると、栞はきょとんとした顔で俺を指さした。
「なんか、いやにすっきりした顔しちゃって、どうしたの?」
「……え?」
「うん、そりゃそうだよね、ごめん! 変なこと言った! 決まったねぇ、よし残りあと5分! 勝ちきれー!」
抱き着いてきていた腕を外して、栞はまたフィールドに向かって声援を送り出す。その興奮した横顔を見つめながら、俺は「そうだな」と小さく呟いた。
このざわめきの中、誰にも聞こえない本音を。
「すっきり、な」
そうだ。俺は何を血迷っていたんだろう。
俺が知っているのは高校生の頃までの折原で。今ここにいる折原とは全然違うのに。
あの狭い世界の中で、俺に触れてきた子どもじゃない。
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