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「さすがだよな」と意識せずとも穏やかな声を出すことが出来るのも不思議だったけれど、嬉しくないわけがない。
「うん、さすが。あの頃とは全然違った」
身体のつくりもプレーの質も。周りにいるチームメイトも。
「でしょ!? でも、なんだかんだでそこまで変わってないとも言われるんスけどねー。しょうもないミスするとことか」
「いや、変わったよ」
「……先輩? どうかした?」
あぁもうこいつは本当に無駄に敏い。電話口の先で怪訝な顔をしている折原が瞬時に思い浮かんでしまって、そっと目を伏せた。
でも――。そうだな、強いて言うなら。
「どうもしねぇよ、あ、そうだ。折原」
「なんですか?」
「俺、今度深山の飲み会行くわ」
言った瞬間、折原は沈黙して、それから「本当に、本当ですかそれ!」と食いついてくる。必死の形相で言ってるんだろうそれに自然と笑みが浮かぶ。
「おぉ、久々に。っつかいい加減、顔出さねぇとなぁとは思ってたし。富原、俺の都合に合わせてくれるって言ってたし」
「金曜とか土曜は止めてくださいね! 俺、次の日試合とかだとちょっときついんで!」
「おーじゃあその辺りで日程調整頼むか」
「ちょ、先輩、ひでぇ! 俺だって出たいんすよ!? 俺いつかあんたが来てくれるんじゃないかってそれだけで、100パーセントに近い出席率誇ってたんスからね!?」
「へぇそうなんだ」
「そうなんスよ! あぁ……もう、なんかもういいっすけど、いや良くないっすけど! どういう心境の変化なんスかって……いややっぱ良いッス! 今度会ったとき聞かせてください」
そろそろ戻らないとヤバいんス、俺。心底切りたくなさそうに呟いた折原に、戻れよアホ。と軽口で返して、それ以上の何かを言われる前に通話を打ち切った。
切る直前、折原の声が聞えたようだったけれど、何を言っていたのかは分からなかった。
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