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あのころの自分を特別視していた折原が、今も何か俺に対して屈託を持っているとしたら、それ俺が中途半端に飲み下させたからで。それだけのはずで。
そうでなければ、引きずるはずのないものだったはずだ。
だとしたら、それは……。
そこで俺は打ち消すように緩くかぶりを振った。
そして思いきるように「そうだよな」と一人ごちる。
今の折原が今の俺と直接交流を持ったのなら、きっと折原の中で過去はいつか昇華されていく。
過去の幻影は消えるのだ。
俺が、いつまでも折原を、自分だけの後を追ってきていた後輩だと思い込もうとしていたのと同じように。
傲慢にも折原を自分のもののように思ってしまっていたのと同じように。
消えるまで、塗りつぶされるまでの間、折原の傍にいることは、今の俺だったら、できるような気がした。
そうしていつかまた、ただの先輩と後輩に、昔のチームメイトに戻って、だらだらと交流が続く。そんなごく当たり前の未来へと繋がっていく。
折原はそのころ、日本から飛び出しているかもしれないけれど。俺のことも忘れるかもしれないけど。それならそれで、別にかまわないと思った。
俺はきっと、覚えてしまっているから。
初恋の亡霊、と呟いた栞の声が脳内で反響していた。
忘れられないのは初めての恋だったからなのか。口に出す前に消えてしまった言霊が彷徨っているからなのか。
それともーー……。
考えたくない思考は捨て置いて、でもそれでもと、ふと思ってしまった。
今朝、夢で見たのは、間違いなくそれだったのだろう。
あれは、どうしようもない俺の未練だった。
【第一部END】
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