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「っつかさ、それにしてもあいつ運悪いよな」
「あぁ、折原? あれだけ行く行くっつってたのに、遅刻だもんなぁ。『後生ですから俺が行くまで待ってて下さい!』って俺、縋られちゃったんだけど」
「俺は折原が後生って言葉知ってたことにびっくりだわ、……って、お、噂をすれば」
悪友の声につられるようにして視線を上げる。ドンと慌ただしい音を立てて、引き戸が開く。
息を切らして駆け込んできた話題の主が、こちらを見とめてほっと顔を緩めた。
「よかったぁ! 先輩、ちゃんといた……!」
やたらと派手にセットされていた髪の毛をぐちゃぐちゃとかき混ぜながら、折原が戸口でへたり込んだ。
その仕草は間違いなく、昔から見知っている折原だったのに、なぜか纏う空気が違って見えた気がした。そしてそれは俺だけじゃなかったらしい。
さっきまで散々酒のつまみにしていたくせに、第一声を発する誰かを譲り合っている気配に、諦めるように俺は小さく息を吐き出した。こんなとき一番先に折れるのは、あのころからずっと、なぜか俺の役割だった。
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