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アンは自分のロッカーを少しだけ開くと、紅茶の香りが漂った。中を覗き、小さくため息をつく。
無断で漁られ、無残に荒らされた彼女の私物は全て、明らかに故意にふたを外され横に倒されたタンブラーの中身で濡れていた。傷だらけのステンレスの無機質な扉のわずかな隙間から、スクールバッグから滲み出した紅茶がポタポタとこぼれてくる。
床に膝をついてタオルで紅茶を拭き始めると、さざ波のような笑い声が少女を取り巻いた。
「タンブラーのフタはきちんと閉めておかなきゃ。他の人の迷惑でしょ、アン」
背後からひときわ甲高く響いた声に、アンの手が止まる。ロッカールームにいる全員に背を向けたまま、小さく呻くように声の主を呼んだ。
「サラ……」
アンが振り向けば、すぐ後ろで彼女を見下ろす少女と視線がかち合う。
ウェーブのかかった赤毛やこげ茶の瞳を持つアンとは対照的に、まっすぐに伸びたブロンドと目の覚めるような青の双眸を持つ少女が勝ち誇ったように笑った。
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