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金髪碧眼の少女――――サラからとっさに目を逸らす。
アンは背中を丸め、他者の視線から自分を匿うよう俯(うつむ)いた。しかし自分の太い足が目に入り、更に気が滅入ってしまう。
「……で、でも、わざとじゃ」
「わざとじゃなくても、迷惑なことに変わりはないでしょ。他の子のロッカーまで濡れちゃうじゃない」
サラの横に立つ少女がすげなくアンの言葉を遮る。同意を得るように、顔色を窺うようにちらりとサラを盗み見た。
「だったら、ちゃんと皆に謝りなさいよ。ブーツが汚れちゃうじゃない。ねえ、そう思わない?」
サラの真新しいショートブーツがぱしゃんと、床に広がった茶色い水たまりを蹴る。飛び散った紅茶はたちまち、アンの白いブラウスにまばらにシミを作った。
アンはのろのろと立ち上がり、サラや彼女を取り巻く少女たち、自分たちを遠巻きに眺めるクラスメイトと極力目を合わさないように見回し、のろのろと頭を下げた。
「迷惑をかけて、申し訳ありませんでした……」
自身の怯えや卑屈な態度が相手の神経を逆撫で、嗜虐を煽ることを、彼女は薄々自覚してはいた。
しかしそれでも、アンはクラスメイトと、中でも特にサラと対峙すると体が竦(すく)む。それは彼女の意志ではなく、条件反射の一種だった。
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