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この国で魔女狩りが終息したのは18世紀。今から数百年も昔の出来事だったはず――――本やサイトには記されていた記憶を、アンはおぼろげに手繰る。
「この森の処刑場はもともと、魔女を処刑するために作られたといわれている。この小屋も処刑人にあてがわれたものかもしれないね。私がこの森を買ったのは20年近く前だが、まだ絞首台が残っていたんだ。さすがにロープの輪は撤去されていたが」
「その絞首台って、まだ残っていますか?」
サミュエル医師は肩をすくめ、二本目の煙草を取り出す。
魔女、処刑、絞首台……少女の両親が聞けば眉をひそめそうな老医師の話に、アンは目を輝かせて聞き入っていた。
「ここから更に奥にある、一見、古びた木の箱というか、段にしか見えないオブジェが絞首台だ。見てみるかね?」
「いいんですか……?」
予想外の提案を受け、アンはまじまじと老医師を見つめた。
実際に処刑場を見るのは、本やネットで写真や絵を見るのとは違う。少女の胸のうちで、恐怖と好奇心、罪悪感と喜びが拮抗する。
処刑が行われていたのは何百年も前で、今は何も怖がることなんてない――――高鳴ってゆく鼓動を落ち着けるよう、アンは声に出さず自分に言い聞かせた。
「そんなことを言うのは、今まで会った子どもたちの中でも君が初めてだよ」
気まずそうに目を逸らす少女に、老医師は苦笑した。
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