水妖の棲む森へ

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「セイラムの魔女裁判ほどではないが、昔はこの地域でも魔女狩りが横行していたんだ。こういう四方を森に囲まれた閉鎖的な農村において、魔女狩りはある種のスペクタクルであり、土着の信仰を守ってきた原住民たちにとっては洗脳と侵略でもあった」  森の奥へ進む道すがら、老医師は淡々とこの森で起きた魔女狩りの歴史を語った。  アンはサミュエル医師の後ろを歩きながら、彼の話に耳を傾ける。時々、彼女の知らない言葉が出てくることもあったが、話を遮らないよう敢えて相槌を打った。 「魔女は大半が絞首刑だったが、この地では罪の重い者はごくまれに、生きたまま火刑に処されたこともあったそうだ。もっとも、絞首刑で吊るされた魔女たちも遺体は焼かれ、その灰は湖に撒かれていたらしい」 「湖?」  この辺りに湖などあっただろうか。アンが首をかしげると、サミュエル医師の歩みが一瞬だけ止まった。 「……処刑場から更に奥へ行けば、湖がある。知らなかったのかね」  不意に、少女は森の奥に進むにつれて、周囲に立ち込める霧が濃くなってきていることに気付く。ほどなく老医師が立ち止まった。 「さあ、着いたよ。ここが処刑場だ」  節くれだった指が示した先には、古びた絞首台の残骸がそびえている。  確かにそれは粗悪な木箱のように粗末で、前もって言われていなければ絞首台の跡だとは分からなかったかもしれない。アンはそんなことをぼんやりと思った。 「これが……」  黒くくすんだ木製の階段の上には、まるで鉄棒か物干し竿のように、太い材木が組まれている。
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