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彼がタバコに火をつけようとしたので咄嗟に止めに入る。
するともうかすれ声しか出ない喉を振り絞り彼は話し始めた。
『俺はな。こうして今、身体のいろんな機能を失ってやっと気づいたんだ。』
『やめて。なにも話さなくていいから。タバコをこっちに渡して。』
『いいんだ。聞いてくれ。』
最期の力を振り絞るように、彼の眼が力を込めた。
『お前が風邪を引いて味覚が分からないといって作った料理がおいしかったこと、ストレスで難聴になってたであろう時期も俺の話を聞き漏らすまいと耳を傾けていたこと、俺が引き千切ってできてしまったお前の頭皮の禿げた箇所。
今になってすべてが愛おしいと思えるようになったんだ。』
私の目の前にいる人は、看守だと思っていたあのヒトなのだろうか。
ふるふると頭を振り続ける私の頬にそっと手を添えると、彼は言葉を続けた。
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