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『お前の味覚どうなってんだよっ!こんなもん食わしやがってっ!』
さっきまで食卓を彩っていたはずの野菜スープが宙を舞った。
『毎回毎回!お前は病食みたいなうっすいおかずしかだせねぇのか。おいっ!早く醤油、持って来いっ!』
スープの横にあった黄金色のカニクリームコロッケが、ドボドボと黒く染まっていく。
役目を終えた醤油ビンは彼の横で立ち尽くす私の顔面を目がけて飛んできた。
頭部を経由したビンは足下へと落下する。
私は黙ってそれを拾うとキッチンへと足枷をハメられた囚人の様に歩を進めた。
――いつからか。
私はこの人の『妻』ではなく『囚人』となった。
なんど逃げても見つかり逃れることのできないこの四畳半のアパートは、愛の巣なんてもんじゃない。ただの監獄だ。
身寄りもなく、お金も持たされない私の足取りには限界がある。
幾度の脱獄も失敗に終わり、見つかり捕まるたびに私は死刑を宣告された囚人の気持ちになるのだ。
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