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何言ってるんだ。理由も聞かずにいつも突き飛ばすのが先じゃないか。
本来ならそう感じるであろう感情は今の私にはすでにない。
言い返そうものなら、今以上の危害が加わることは必然。
この状況を打開しようなどという考えは毛頭ない。
私の心はこの看守に蝕まれ、すでに末期だ。
いま…この場さえ凌げれば…
そうやって生きるのが常であった。
彼が宅配の包みを持って遠ざかって行く姿に安堵する。
だが安堵など一瞬だ。
あの包みは間違いなく例のカタログ商品。
――こんなに早くに到着するなんて。
私の心臓は早鐘を打つようにせわしく動き始めた。
無造作にあけられた包み紙はビリビリになり、食卓の下で所在なさげに転がっている。
不安高まる心情とは裏腹に、迷いなく中身を取り出した彼は意外にも上機嫌になった。
『お、缶詰セットか。つまみに丁度いいじゃないか。おい、酒持って来いよ。』
先ほどの鬼のような形相とは打って変わり彼は頬を緩ませ私に笑顔を見せた。
カタログ商品はサバの味噌煮やウナギの蒲焼、焼き鳥などの缶詰の詰め合わせであった。
その晩、彼はその缶詰セットを一人でペロリと平らげ、新しく開けた日本酒を手に上機嫌で床についたのだった。
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