雨音

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雨音

 六月後半。梅雨っていう時期柄仕方ないけど、最近、雨ばっかだよな。  引っ越しの日は運よく晴れてたけど、そこから先はぐずついて、降ったりやんだりの雨模様。  幸い、出勤時や帰宅時には上がってることが多いけど、夜はたいてい降っていて、いつも雨音が聞こえてくる。  夜は家にいるだけだから構わない…とは思うけど、ほぼ毎日だと気が滅入る。  だけど今夜も外は雨だ。分厚いカーテン越しにすら雨音が聞こえてくる。  でも翌日、俺はおかしなことに気がついた。  ベランダが濡れていないのだ。  構造上の理由で、雨が降れば軒先に絶対振り込む。小雨でも振り込む。なのにベランダはからりと乾いて、今から布団を干すことさえできる状態だ。  おかしい。今は晴れているけど、夕べは雨が降っていた。はっきり音が聞こえていた。  誰かが忍び込んで、ベランダの水気だけを綺麗に拭き取りでもしたのか? そんなこと、する意味がなさすぎる。  じゃあ、雨が気のせいだったのか? でも、確かに音がしていたし…。  訳が判らず、俺はただ首を捻った。  そしてその夜。  風呂から出てくつろいでいた時、窓の方から特有の音が響き始めた。  今夜も雨が降ってきた。  またかよと、げんなりして肩を落とす。でも俺の意識に、朝のベランダが浮かび上がった。  昨夜も雨は降っていたのに、水分の一滴もなく乾いていたベランダ。  何だか無性に気になってカーテンを引き開ける。  夜の暗さでよく見えないが、窓ガラスの向こうに雨が降っている様子はなかった。  念のため、ベランダに出て確認する。やっぱり雨なんて降っていない。見上げれば、空には星が見えるくらいだ。  でも、部屋に戻ってカーテンを引けば、室内にはたちどころに雨の音が響き出す。  もしかしたら、このカーテンを引くと、静かさが雨の音のように聞こえてくるのかもしれない。どうせ外から覗ける高さじゃないし、だったらいっそ、カーテンを開けたままにしておけばいいのではないだろうか。  我ながら名案だと思い、俺はカーテンを窓の両脇に寄せた。そのまま暫く様子見をしていたけれど、もう雨の音は聞こえてこない。
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