0人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
何が悪かったのか、何を間違えていたのか――見当もつかなかった。
しかし目の前で圧倒的なまでの存在感を放つ死は、漫然とそこに存在した。
吐き気がするほどの濃い血の臭い。
積み上がったおびただしい死体の山。
その中の一人はつい先ほどまで、喉をからすほどの雄たけびを上げながら剣を振るう戦士だったかもしれない。仲間の死を目の当たりにしながらも歯を食いしばって矢を射る弓兵だったかもしれない。が、その彼らは既にこと切れ、冷たくなった肢体が重なり合うその山の中で静かに眠っていた。
「レイファリア……」
こちらを赤い瞳で見つめる少女の名を呟く。
……いや、もう少女と呼ぶのは失礼に当たるかもしれない。
そう思わせるような大人びた笑みが、彼女の整った顔に浮かんでいた。
「久しぶりだね、アル。ずっと、会いたかった」
思わず惚けてしまいそうな、甘い微笑み。
小さく頭を振り、動揺を隠すように無理やり口角を持ち上げる。
「嬉しいことを言ってくれるじゃねぇか、レイファ」
それはもはや笑みになっているかすらわからない、酷く歪なものだったと思う。
彼女は、整った眉を寄せた。
「……君は、変わらないね」
その表情に、何も言えなくなる。
「ねえ、アル。私たち、何を間違えたんだろうね」
何度も反芻した疑問。
決して警戒を解かぬようにと握りしめていた愛剣の柄が、自然と汗ばんでくるのを感じた。
「……さっぱりだ。知ってるだろう? 俺の脳みその出来を」
出会った時から高貴なたたずまいからは想像もできない図太い神経の持ち主で、剣聖と呼ばれる俺に畏怖せず、なにかとずけずけと言ってきた彼女。「バカ」だとか「アホ」だとか。そのたびにたしなめるが、「そんなのアルだって同じようなものじゃない」と一蹴されて微妙な顔をする。
今思えば、それがどんなに幸せな日々だったか――振り返ってみて初めて惜しくなる。
だからかもしれない。
「――違うよ、アル」
あの頃のように、意味を持たないからっぽの言葉で罵倒してほしかったのかもしれない。
「あなたのソレは、ただ考えることを放棄しただけ」
その言葉には言いようのない棘があり、重みがあり――わずかながらも俺の警戒に隙が生まれる。
最初のコメントを投稿しよう!