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静まり返った室内。
部屋の主は足元で伸びている。
――それにしても、間抜けな顔で伸びてやがるにゃ。
しゃがんで顔を覗き込んだ。
加減したから、頭蓋骨陥没なんてことにはならないはずだ。
たとえ本部からの指示だとしても、マコトにはまた痛い思いをしてもらわなければならなかった。
この後、本部から派遣されるNo.666がやって来て、記憶の消去作業を始める。
あと三十分で目の前に横たわる男の記憶から、自分のことが消えて無くなり、撤退作業が完了し、もう二度と会うこともなくなる。
「……痛くないかにゃ……?」
優しく頭を撫でてやる。
――まったく自分らしくないことをしているものだ。
仮にも裏世界で“殲滅の黒猫”と呼ばれて恐れられた暗殺者のくせに。
あたしはこの温もりが失われることをためらっている。
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