第一話“裏”

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 静まり返った室内。  部屋の主は足元で伸びている。  ――それにしても、間抜けな顔で伸びてやがるにゃ。  しゃがんで顔を覗き込んだ。  加減したから、頭蓋骨陥没なんてことにはならないはずだ。  たとえ本部からの指示だとしても、マコトにはまた痛い思いをしてもらわなければならなかった。  この後、本部から派遣されるNo.666がやって来て、記憶の消去作業を始める。  あと三十分で目の前に横たわる男の記憶から、自分のことが消えて無くなり、撤退作業が完了し、もう二度と会うこともなくなる。 「……痛くないかにゃ……?」  優しく頭を撫でてやる。  ――まったく自分らしくないことをしているものだ。  仮にも裏世界で“殲滅の黒猫”と呼ばれて恐れられた暗殺者のくせに。  あたしはこの温もりが失われることをためらっている。
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