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すべてを振りきるように立ち上がり、無線のスイッチを入れようとして、ふとある物に気が付いた。
マコトの勉強机の上に置いてある写真立て。
そこに親子三人が映った写真がいれられている。
長髪の黒髪が美しい細身の女性と、体格のがっしりとした男性、そして二人に大切そうに抱かれている赤ん坊。
たぶん、赤ん坊がマコトで、男女が両親だろう。
だが、あたしの目は見逃さなかった。
気付いたのだ。今回の任務が、なぜ無理難題ばかりで、国の一部のシステムをねじ曲げてまで実行されたのか。
――そうか、そう考えるとあたしを護衛として付けた理由も、処分が今までになく重いものだったのも頷ける。
無線のスイッチを入れ、本部を呼び出す。
だが、強制的にプライベート通信にされているようだ。
「――職権乱用もいいところのようですにゃ?」
「……知ったことか」
通信相手はそれだけ言うと黙り込んだ。
こちらの出方を探っているようだ。
「護衛任務の継続と処分の取消を要求するにゃ」
「……やはり、お前には敵わんな。良かろう」
これで銀行口座の凍結が解除され、以前の地位も取り戻すことになる。
更には弱みも握ることになるが。自然と暗黒の笑みが溢れていた。
とりあえず、床に倒れているマコトをベッドに運び、自分もその隣に体を横たえる。
目が覚めたら、マコトは自分を妻として受け入れてくれるだろうか。
急速に失速していく意識の中で、マコトの温もりだけを感じていた。
第一話裏 完
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