episode4

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私は驚きを隠せなかった。稲嶺にとってその反応は想定内だったみたく、特に気にすることもなく話を続ける 稲嶺「あなたにお伝えしなければいけないことがあります」 稲嶺は表情は温厚だがどこか強い意志を持っている人間で、そんな人から話があると言われると緊張してなのか私は無意識に背筋を伸ばした 稲嶺「あなたのお父さまがどんな方だったのか、...どんな最期だったのか」 こころ「聞きたいです」 私は即答した 私は父親のことを覚えてないし、誰も父親のことを話してくれなかった 稲嶺は安心したように笑って話してくれた 稲嶺「日野図書館の図書館員であり...当時私の下で働いていたあなたの父親はとても優秀な人でした。そして人としても立派な人でした」 日野図書館が公立図書館のシンボルとまで言われるようになったことにも、少なからずこころの父は貢献していた 稲嶺「日野図書館が襲撃された時、私はあなたのお父さんに守ってもらいました。私が今こうやって生きていられるのもあなたのお父さんのお陰です」 良化法賛同団体の1人が当時館長だった稲嶺に撃った時、前に立ちはだかったのはこころの父だった。こころの父親の急所に弾が貫通し、稲嶺に右足に弾が食い込んだのだ。それと同時に最後の一冊となった本『南多摩の郷土と歴史』を守りきったのだ 稲嶺「私の命と残った1冊の本を守ってもらいました。...しかしその本もつい先程燃やされてしまったのですがね」 私は食いつくように稲嶺司令の話を聞いていた。しかし私は体の力が抜けているのか、小牧教官に寄りかかるような体制になっている 稲嶺「最期かすかに呟いた言葉を今でも覚えています」 こころ「...なんて言ったんですか?」 稲嶺「『あの子達が自由に生きていけるようにして下さい』そう言ってました」 私は完全に崩れた。しかし小牧教官がそれを支えるように私の腰に手を回した 稲嶺「こんな時に不謹慎かもしれませんが、あなたのお父さんには本当に感謝しています。ありがとうございました…そして、貴方の左腕の傷…それは………」
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