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白い妖精が舞っていた。
白く薄い絹のような衣を纏った少女が跳ねるように踊っている。
前に後ろに、右に左に。そのステップは軽やかで、跳ねるたびにはためく衣は幻想的で、その姿はまるで妖精のようだった。
天使の歌声が響き渡っていた。
少女の白い唇からリズムを伴った言葉が紡ぎだされる。
その旋律は死に逝く者さえ振り返らせる、そんな透明感に統率されていた。
音がありながら、聞くものに湖畔のような静謐を感じさせる。
それはまるで人ではない、天使の歌声のようだった。
それを大衆は満面の笑みをもって迎え入れている。
ある者は手を叩き、ある者は手を取り踊り、ある者は共に謳っている。
その光景は穏やかで、ここは楽園か天国かと疑いたくなる。
――まぁ、その、残骸だらけの背景がなければだが。
それを気にした様子もなく、その宴は続いていく。
その華やかな少女を取り囲む大衆の群れは、いつまでも笑顔で満ち満ちている。
それを、一匹の赤い悪魔が見つめていた。
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