理解不能、歌、大衆

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 一人の男が立っていた。  ボロ雑巾のような服を風にはためかせ、手をだらんとたらし、虚ろな目ながらも、その男はちゃんと自分の足で立ち、こちらを向いていた。  人が、生きていた。  少年は歓喜した。  この世界でたった一人の生き残りになった感覚から、救われた気がした。  込み上げてくるような笑みが顔中に溢れた。  駆けつけようと走り出した時、  ぼろり、とその男の首がもげた。  息が、詰まった。  足が止まり、差し出した手が所在無さげに震える。  見ると、残された首からは血が一滴も溢れてこなかった。  ――元々、死んでいたのだ。 「――ぇっ……ぐっ、ぐぇ……」  口から、妙な呼気が洩れる。  裏切られた歓喜が、行き場をなくし腹に重くのしかかる。  思う。  ――この世界には、もう俺以外誰も生きてないんじゃないだろうか?
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