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「ご、ごめんなさいっ!」
言葉を発する前に彼女の大音量がそれを遮ってしまう。
行き場を失った自分の言葉を喉に詰まらせている僕を尻目に、辻川さんはごめんなさいごめんなさい、と何度も頭を下げて謝っている。
彼女のブラウンの髪が揺れる頭に伴ってふわりふわりと舞う。その様子を見ていると、僕は少しずつ平静を取り戻していった。
待て。僕の行動はおかしくなかったか。音が止むと同時にドアを何度も叩くなんて、それじゃあ彼女の演奏が迷惑なものだと言っていると思われても仕方ないんじゃないだろうか。
「や、やっぱりうるさかったですよね!? あ、いや、それともあまりに音痴でお怒りでございますか!?」
もしかして、ひょっとすると、と瞳の端に滴をためながら「謝る原因」を次々と口にする彼女を見て、僕は自分の想いの欠片も伝わっていないことに気づいた。いや、伝わるはずもない。
「ち、ちがう! 辻川さん落ち着いて! 日本語も変だよ!」
「え、で、でも」
「さっきのは……そう、拍手! 演奏すごく良かったから、それを伝えようと思ってさ。別にクレーム入れようと思ってノックしたんじゃないんだ。誤解させてごめんなさい」
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