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「高校卒業してからずっと路上ライブばっかりやってたら、親がキレちゃってさー。遊んでないで就職しなさいって。そりゃ定職に就いてほしいって気持ちは分かるよ? でもさ、娘が真剣にやってることを遊びとか言うなんて酷くない?」
「うん、それはちょっと酷いね」
「でしょ!? それで私もムカついて、家出してでも夢を叶えてやるって言っちゃったの。そしたら、おう、出てけ出てけって言われて……」
「だから、本当に家を出てここに引っ越してきちゃったわけか」
「そうなの」
今度は一変して思い詰めた表情をする辻川さん。幼い顔立ちをしているのに、その表情が憂いに満ちるとやけに大人びて見えた。
その不安定さが彼女の脆さを浮き彫りにしているようで、僕は自分の胸の奥にある小さな隙間を指で強引にこじ開けられるような、奇妙な心許なさを覚える。
「君は、すぐそこの大学に通ってるんだよね?」
「うん、まぁね」
「うわぁ、良いなぁ、キャンパスライフ! 毎日楽しいでしょ?」
「そうでもないよ。講義サボって、バイト行って、友達と酒呑んでだらだらするだけ」
「それでもだよ! 羨ましいなぁ……」
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