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「辻川さんって、犬みたいだよね」
前に一度、彼女に言ってみたことがある。その日は初秋で、僕が3回ノックをした日で、辻川さんはすごくご機嫌だったのを覚えている。
「え~? そうかなぁ……」
「うん、絶対そう。俺、耳と尻尾つけてみたいもん」
「なにそれっ」
彼女がくすくすと笑う。たった、それだけのことなのだ。ただ、目尻が下がり、口角が慎ましげに上がるだけ。たったそれだけのことを、僕は何度も見たいと思ってしまう。
「あ、じゃあさじゃあさ」
いかにも「良いことを思いついた」といった声色だった。丸く大きな瞳をいやらしげに細めて問うてくる。
「首輪はつけてみたい?」
「……えっ!?」
「だから、首輪だよ首輪。私につけてみたいー?」
いや、それは一体どういう意味ですか……?
思わず、彼女の白い首に目がいく。キメの細かい肌だった。僕の喉から水分が失われていく。目を逸らす。何と言ったら良いのかが分からなくて、視線が右往左往。錆びた手すり。塗装の剥げた灰色の外壁。
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