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♪
打てば響くような関係だった。
１年前まで。隣の部屋にはたくさんの音がぎゅうぎゅうに詰め込まれていて、僕が壁を軽く叩くだけで何かしらの音が飛び出てきそうな気がしていた。
水道の音、食器を洗っているときのカチャカチャという音、掃除機の騒音。そして何よりも、彼女の歌。
このボロアパートの薄い壁は僕と彼女の関係を完全に断つには頼りなくて、彼女の発する音は僕の鼓膜を細く揺らした。
だけど。
布団に寝そべったまま、左隣の壁を軽く叩いてみる。トン、というどこか人を不安にさせる音が、ひんやりとした部屋の空気に吸い込まれて消える。
しばらく待ってみても返事はない。当然だ。隣の部屋の主は、身に纏わる音たちを引き連れてここを去ってしまったのだから。
気づけば夜になっていた。家に帰ってからすぐ布団の上に倒れこみ、照明にぶら下がる紐を眺めながらただ呆けていた。
眠るでもなく、考えごとをするでもなく、四肢を投げ出して無駄な時間を貪る。
ほとんどカロリーを消費していないはずなのに、胃が空腹を訴えていた。下腹部がぎゅるるると不快な音を奏でる。時間じゃ腹は膨れないらしい。
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