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彼女がいた部屋は2階の端っこで、「お隣さん」と呼べるのは僕だけだった。
それが良かったのか悪かったのかは分からないけど、僕はその自分の立場を、少しだけ嬉しく思っていたことを覚えている。
自宅に戻って夕飯を食べ終えると、電池が切れたように身体が動かなくなって、そのまま布団に倒れこんでしまった。
畳の上に散らばったおにぎりやパンの包装紙を片付けるのも億劫だ。
風呂に入って歯を磨いて、Yシャツにアイロンをかけて。やることはいっぱいあるのだけど、脱力感に身を任せた僕は「明日の朝で良いや」と後回しにする。
夢を見そうな静かな夜だった。最近テレビを点けていない。画面から笑い声が聞こえてくると、無性に腹が立ってしまうからだ。
僕はこんなにも辛い思いをしているのに、という無様な八つ当たり。
あんなにうるさかった蝉たちもいつの間にか鳴くのをやめて、あんなに鬱陶しかった蚊の羽音にも悩まされることはなくなっていた。
夜の寒さをもうタオルケット一枚じゃ乗り切れないと悟って、押し入れから毛布を引っ張り出したのが3日前。
停滞する僕には目もくれずに、季節は巡っていく。
澄んだ空気に包まれながら、僕はゆっくりと瞼を閉じた。
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