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「あの、初めまして! 辻川といいます。今日、隣に引っ越してきました!」
彼女の第一印象は硬質なギターケースだった。辻川と名乗った女性がぺこりとお辞儀をすると、背負っていた黒いケースが僕の眼前に迫ってきた。
その迫力にたじろぎながら「ど、どうも」と返す。
「あの、隣、うるさくしてすみませんでした」
そう言って申し訳なさそうな表情を浮かべる彼女に、思わず心臓が高鳴る。
肩まで伸びたブラウンのウェーブヘアに、くりくりとした大きな瞳。身長は僕の妹よりも少し低いから、おそらく150cmぐらいだろう。
全体的に線が細くて、その小柄な身体に不釣り合いなサイズのギターを背負う姿は、リスが大きなクルミを持っている様を彷彿とさせて愛らしい。男の庇護欲をくすぐられる。
「いえ、全然大丈夫ですよ。ていうか、さっきまで寝てたので……」
部屋の外はもう夕暮れの黄金色に包まれていた。
昨日の夜遅く、というより今日の早朝まで友人達と酒を呑んでいた。酒宴が終わり、そいつらを家から追い出した後、今までずっと眠りこけていたらしい。
夢の切れ間に、ドタドタという足音や、重い物を下ろすときの鈍い音を聴いた気がしたけど、今思うとそれは彼女が今日このアパートへやって来た証だったのかもしれない。
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