3回ノックと君の音

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 ……いや、本気でそう思っているわけではない。そんなことがあるはずないと頭では分かっている。  でも、隣にこんな可愛い娘が引っ越してきて、この物騒なご時世にわざわざ挨拶しにきてくれたのだ。  彼女とのラブロマンス的な未来を、少しも妄想しない男なんていないに決まっている。  そう、それは宝くじの当選番号を聞く寸前の感情に似ていた。「まさか」を完全に否定しきれないからこそ、その小さな欠片が僕の胸を刺して、毒は身体中を巡り、血液を沸騰させるのだ。 「これなんですけど」  辻川さんが身体を半回転させて、背中の存在を僕にアピールしてくる。 「ギター?」 「そうです。ギター」  僕は、体中の熱がスーッと引いていくのを感じた。 「実は練習場所に困ってて……。自分の部屋でギターの練習したいんですけど、それだとどうしてもこのアパートに住む方々にはご迷惑をおかけすると思うんです。このアパート、ボ……年季が入ってるし、アコギだからイヤホンも使えないし……。でも、大家さんが、今住んでいる人たちが構わないなら練習して良いって言ってくださったんです! 極力音は抑えますから、その、ダメ……でしょうか?」
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